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名古屋地方裁判所 昭和39年(ヨ)1092号 判決

申請人 長谷川嘉市 外五三名

被申請人 名古屋証券取引所

主文

申請人らの本件仮処分申請はいずれも却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

申請代理人は「被申請人は申請人らに対して別紙請求金額明細書の請求金額欄記載の金員を仮に支払え」との裁判を求め、被申請代理人は主文同旨の裁判を求めた。

第二、申請の理由

一、申請人らは、いずれも被申請人の従業員であり、申請外名古屋証券取引所労働組合(以下労働組合と云う)の組合員である。

二、右労働組合は昭和三九年六月一〇日、被申請人に対して申請人らの昭和三九年六月期手当として、従業員の月俸プラス六、六〇〇円及び家族手当の各三、五ケ月分及び組合員一律に一〇、〇〇〇円の金額を要求したが、被申請人は同年六月二九日、右手当としては月俸及び家族手当各二、四ケ月分及び組合員一律に三、〇〇〇円を支給したい旨を回答した。

三、右労働組合は、右六月期手当要求貫徹のため、昭和三九年六月一〇日以後、毎週火曜日及び金曜日の早朝には名古屋市中区南伊勢町一帯に右組合の要求の正当性を訴えるビラを配布し、同年六月一二日には午前八時三〇分から同五〇分までの間、被申請人の建物の玄関前で組合集会を開き、次いで同八時五〇分から同九時まで一〇分間のストライキを行い、また同年六月二六日には午後〇時より午後〇時三〇分まで右玄関前で組合員決起大会を開き、更に同年七月三日にも午後〇時から午後〇時一五分まで右玄関前で組合員決起大会を開き、被申請人の理事長室前で午後〇時一五分から同〇時四五分まで抗議集会を行つたが、右労働組合と被申請人との右六月期手当の交渉についてはその妥結を見ていない。

四、そこで右労働組合は同年七月三日、被申請人に対して、申請人らの右六月期手当要求額のうち、月俸及び家族手当の各二ケ月分の仮払を要求したが、被申請人は翌七月四日これを拒否し、次いで同年七月一〇日右労働組合が口頭で再び右仮払を要求したが、これに対しても被申請人は翌七月一一日その仮払を拒否し、更にまた右労働組合が同年七月一三日被申請人に対して文書で右仮払の要求を為したが、これに対しても被申請人はその仮払を拒否した。

五、ところで被申請人には右労働組合の外に名古屋証券取引所従業員組合(以下従業員組合と云う)があり、被申請人は右従業員組合との間に昭和三九年七月三日、同年六月期手当として月俸と家族手当との各二、四ケ月分及び組合員一律に三、〇〇〇円を支給する旨の協定を締結し、翌七月四日右従業員組合に属する従業員に右手当金を支給している。

六、申請人らは労働基準法第三条の規定によつて、被申請人から右従業員組合の従業員と異る差別取扱を受けることはないので、被申請人が右従業員組合と右六月期手当の支給について協定を締結した日である昭和三九年七月三日に、右従業員組合に属する従業員が被申請人から支給を受けた金額と少くとも同額の六月期手当金を被申請人に対して請求する債権を取得したものである。従つて申請人らは被申請人に対して昭和三九年六月期手当金の一部仮払いとして別紙請求金額明細書記載の通りの各金員を請求する。

七、申請人らは被申請人から支払われる賃金によつてのみ生活しているものであり、右六月期手当は賃金と同一視されるべき性格のもので、申請人ら及びその家族らは右手当によつて生活費の赤字補填を考えているのであり、右手当の支払を受け得ないことによつて経済的破綻を来すことが明かであり、追つて提起する本案判決の勝訴を待つことが出来ない。

第三、被申請人の答弁及び主張

一、申請の理由一について

申請人主張事実を認める。

二、申請の理由二について

申請人主張事実を認める。

三、申請の理由三について

申請人主張事実中、労働組合が昭和三九年六月一二日午前八時五〇分から午前九時までストライキを行つたこと、同年七月三日午後〇時一〇分から同四〇分まで被申請人理事長室前で労働歌を高唱したこと及び被申請人と労働組合との間に昭和三九年六月期手当金の交渉についてその妥結を見ていないことは認めるがその余の事実は不知。

四、申請の理由四について

申請人主張事実を認める。

五、申請の理由五について

申請人主張事実を認める。

六、申請の理由六について

申請人主張事実を争う。

七、申請の理由七について

申請人主張事実を争う。

八、被申請人の主張

被申請人の就業規則には「賞与金は所員の勤怠、功過を考査してこれを支給することがある」と定められているのであるから申請人らに対する賞与金の支給及び額の決定はいずれも被申請人の専権に属するものと云うべきで、従つて申請人らが賞与金の支払を権利として請求することは出来ないものと云うべきである。

第四、被申請人の主張に対する申請人の反論

被申請人と労働組合の間で締結された協定によれば(イ)六月期手当又は一二月期手当の支給については成績考課は原則として行なわない(ロ)欠勤控除は最高月俸分の四〇パーセントが減らされるに過ぎないことがそれぞれ協定されているので、就業規則の規定は右協定によつて修正を受け、六月期手当は勤怠考課に対する賞与としての性格を失い、賃金の一部若しくは生活補償金の性格を有するものとなつている。

第五、疎明〈省略〉

理由

一、申請人らが、いずれも被申請人の従業員で、労働組合の組合員であること、右労働組合が昭和三九年六月一〇日、被申請人に対して申請人らの昭和三九年六月期手当として従業員の月俸プラス六、六〇〇円及び家族手当の各三、五ケ月分及び組合員一律に一〇、〇〇〇円の金額を要求したのに、被申請人が同年六月二九日、右手当としては月俸及び家族手当の各二、四ケ月分及び組合員一律に三、〇〇〇円を支給したい旨を回答したこと、右労働組合が右要求貫徹のため、昭和三九年六月一二日午前八時五〇分から午前九時までストライキを行い、同年七月三日午後〇時一〇分から同四〇分まで被申請人理事長室前で労働歌を高唱し抗議集会を行つたこと、被申請人と右労働組合との間に昭和三九年六月期手当金の交渉についてはその妥結を見ていないが、被申請人と従業員組合との間には、同年七月三日、六月期手当として月俸と家族手当の各二、四ケ月分及び組合員一律に三、〇〇〇円を支給する旨の協定が締結され、翌七月四日被申請人が右従業員組合に属する従業員に右手当金を支給していること、右労働組合が被申請人に対し、昭和三九年七月三日、六月期手当の一部仮払いとして月俸及び家族手当の各二ケ月分を要求し翌七月四日これを拒否され、続いて同年七月一〇日にも同じく仮払いとして右金額を要求し、翌七月一一日これを拒否され、更にまた同年七月一三日にも同じくこれが要求を為したがこれも拒否されたことは当事者間に争いがない。

二、ところで申請人らは右被申請人の行為は労働基準法第三条に違反するものであると主張するのでこの点について考えてみるに、まず右条項は、使用者が国籍、信条、社会的身分のいずれかを理由として労働者の労働条件につき差別的取扱いを行うことを禁止するものであるから、右被申請人の行為が右条項に違反するものと云うためには、被申請人が申請人らの国籍、信条、社会的身分のいずれかを理由として六月期手当金の支給について差別的取扱を行つたものであることを要するのである。

三、そこでこの点について見るに、右条項にいう社会的身分とは生来の社会的事情によつて生じている他人と区別される永続性を有する地位を指すものと解されるから、申請人らが労働組合の組合員であつて従業員組合の組合員ではないと云う地位は右条項にいう社会的身分には該当しないものと云うべきである。そうして、申請人らが右労働組合の組合員であることが特定の政治的信念を有するものであるとの主張及び疎明も更に申請人らがいずれも右従業員組合の組合員と国籍を異にするものであるとの主張及び疎明もまた存しない。

四、そうだとすれば被申請人の右行為が労働基準法第三条の規定に違反するものではないことが明らかであり、申請人らの本件仮処分命令申請は被保全権利の存在についての主張及び疎明がないことに帰するので、その余の点について判断するまでもなく失当である。

よつてこれを却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田正武 川坂二郎 小島裕史)

(別紙省略)

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